皇統の男系維持は“多文化共生(ダイバーシティ)社会実現”のために必要である

文/宮本タケロウ

男女平等のために女系容認

皇位継承の議論では皇位を継ぐのを男性・男系に限った点が“男女差別”であり、「ヨーロッパ王室では古い女性差別をなくすために直系長子継承に変更した」など欧州王室が引き合いにだされて、批判されることがあります。

“男女平等”は近代的な概念であり、現代社会では守らなければならない大切な価値観であることは間違いないですので、確かに「ヨーロッパ王室では直系長子!だから日本も!」という主張には説得力があります。

しかし、それぞれの国や地域に固有の王権やリネージ(系譜)という文化に男女平等という理性的な論理を当てはめてよいのかという問題も同時に生まれます。

日本の皇位継承が男尊女卑に基いて行われてきたことは事実ですが、それを、近代的価値観やグローバリズムの潮流に基いて、変えて良いのでしょうか。

今回は、日本とは文化的背景の全く異なるアフリカ(南スーダンのヌエル人社会とガーナのアサンテ王国)の事例から、“王権やリネージの文化とグローバリズムの関係”を考えてみたいと思います。

まず、ガーナのアサンテ王国から紹介しましょう



女系で続いた王朝、アサンテ王国

日本の皇室は「皇統は男系の男子がこれを継承する」と決まっていますが、反対に「王統は女系の女子がこれを継承する」と決まっている王家があります。

西アフリカ、ガーナのアサンテ王国(アシャンティとも)という王国がそれにあたります。

実は、西アフリカは男尊女卑の社会で家の当主は男性がなりますが、その継承においては母系制であり、伝統的に、当主(男性)の姉妹の息子が跡継ぎになるという社会でした。当主の息子が跡継ぎにならない理由はなぜかと言うと、男は妻が生んだ子を本当に自分の子であるのかを証明できない一方で、女は自分が産んだ子を間違いなく自分の子であると客観的に証明できるからです。

アサンテ王国も同様で、女系の王朝と言っても、女王が君臨するわけではなく、アフリカ一般の母系制社会と同様に、王の姉妹の息子が王位後継者となりますが、珍しいのは「王」とは別に「王母」という地位があって二つの権威を両立させる政治システムがあることです。

「王母」は「在位中の王の母」を意味せず、「次の王の母たる王族の女」という概念で、多くは王の姉妹が「王母」に即位します。

例えば、王が崩御した後はその息子ではなく、王の姉妹の息子(女系の甥)が王に即位することになっていて、そしてその王の崩御後は、さらにその王の姉妹の息子が王位に即位するのです。

アサンテ王国の系図を見せましょう。

(阿久津昌三『アフリカの王権と祭祀』及びGhanaCulturePoliticsを基に筆者作成)

系図の見方は数字が王、アルファベットが王母、〇が王母でない王族女性です。

系図を見ての通り、アサンテ王家はMaanu(マヌ)という女性が始祖の王朝であり、代々女系でマヌの血をつないでいるのが一目瞭然かと思います。例えば、第12代王母アマ・セニャ・ニャコ(系図のL)は、母の母の母(曾祖母)に遡って王母位を継いだので、日本で言うと傍系宮家から皇位を継いだ光格天皇と同じと言えるでしょう。

また、王母は特定の家系の男子と結婚しなければその子供は王位に付けないとされていました。これは天皇が五摂家等としか結婚できなかったのと似ていますが、しかし、第6代王母アマ・セワ(系図のF)は貴賤婚をし、そして貴賤婚で生まれたクワク・ディワ1世(系図の9)が王に即位しました。

さらに、次世代の王と王母を生むために、結婚・離婚を繰り返した例もあります。



王母位は、王統に属する女系の女子が、これを継承する

どうでしょうか。曾祖母に遡っても、貴賤婚をしても、再婚を繰り返してでも、その子供が王や王母に即位するというのは、女系の血統こそが正統であり、始祖の女性マヌの血を引くからに他ならないと言えるでしょう。

アサンテの王権を研究する論文にはこう書かれます。

王母位の継承方式は、基本的には、直系=垂直(母子)型をとっている。直系継承が不可能な場合には離婚という強硬手段に訴えてでも傍系継承によって母性の機能を維持しようとしたのである。言い換えれば、アサンテの系譜は、擬制的なものを含んだ血脈の系譜的連続性における無窮性を表しているのである。

阿久津昌三『アフリカの王権と祭祀』、197頁

このアサンテ王国は20世紀初頭にイギリスによって行政的には滅ぼされましたが、象徴的な王家としてはイギリス植民地時代も生き残り、現在のガーナ共和国でも伝統的な王家として存在します。

日本の皇室とは正反対に、「王統は、女系の女子が、これを継承する」という王家が実在することをお分かりいただけたでしょうか。



南スーダンのヌエル人社会

さて、同じサブサハラアフリカでも、南スーダンのヌエル人社会はガーナと異なり、男系リネージが基盤の社会です。

ヌエル研究論文『エ・クウォス』(橋本栄莉、2018年)の「他者に出会うことは祖先を辿ること」という節にてヌエル人社会のこのような伝統が書かれます

ヌエルの典型的な挨拶の一つが、全く見知らぬ人物に名前を尋ね、その父たちの名前を尋ねていき、そして自分と他者の距離を把握するというやり方である。ヌエルの人びとの名前は、次のように自分の父系の祖先を辿ることで表現される。

自分の名前ー父ー祖父ー曽祖父ー曽祖父の父ー曽祖父の父の父…

したがって、互いに自分の父系の祖先の名前を順々に名乗り合っていけば、必ずどこかで同じ祖先(始祖)に辿り着く。ヌエルの人同士であれば、このように父から始まる祖父の名前を辿っていくことで、目の前の人と自分の「親族関係」(mar)を把握する事が出来る。

橋本栄莉『エ・クウォス 南スーダン・ヌエル社会における予言と受難の民族誌』九州大学出版会、2018年、123-124頁

ヌエルであれば自分の父系の祖先を知らないということはあり得ないことで、それは初対面の人と深い関係(恋愛、婚姻)を作る時に、相手のリネージ(系譜)を確認するためだそうです。父系の祖先を基盤にして、他者との関係を構築するというシステムですね。

これを人類学の用語で「分節リネージ体系」と言います。

そしてこれが、ヌエル人社会の”コスモロジー”ともつながっています。

ヌエルの人びとは、たとえまだ幼い者であっても自分の名から出発し、自分の父系出自を最後の祖先、即ちこの世に初めに誕生した「人間」やさらに人間を創った「世界」を意味するホアにまで続く、自分の父、母の父系の祖先の名を覚えているという。(中略)

そのため、われわれを含む世界のすべての者は、彼らの親族体系の中でいつか繋がる、遠い「親戚」として捉えられている。

同上、124頁

このような世界観を持つモラル・コミュニティでは、小さな子供でも”先祖辿り”が自然に暗唱できるらしく、6歳の子供にでも「あなたは誰?」「それは誰?さらにそれは誰?」と聞くと、例えばこう答えるそうです。

わたしはニャショル(自分の名)。ニャショル・シャール(父の名)、シャール・ショット(祖父の名)、ショット・シャアール(曽祖父の名、以下同)、シャアール・二ィエール、二ィエール・ダン、ダン・クアール、クアール・クアス(最小リネージの始祖の名)、クアス・ゴール、ゴール・クウォック、クウォック・ニャン、ニャン・ディナイ(低地ヌエルの始祖の名)、ディナイ・ゲー(ヌエルの始祖の名)、ゲー・ラーン(人間の始祖)、ラーン・ホア(世界)!

同上、125頁

父系の祖先の名前を辿って、最後には人類の祖とこの世界全体にまでたどり着く世界観がヌエルの人の伝統であると言えるでしょう。



ヌエルの父系コスモロジーも近代の産物?

なかなか複雑な社会だなと思いますが、ヌエル研究の祖とも言える『ヌエル族の宗教』を記した人類学者のエヴァンズ・プリチャードの報告によれば、1930年代のヌエル社会はせいぜい3代か5代前までの先祖を辿るだけであり、それ以上の先祖は遠い神話の存在と見なされていました。

しかし、現在は5代以上前の先祖も、遠い神話的祖先ではなく、実際の祖先であるかのように語られます。なぜより遠くの祖先まで辿るようになったかは、はっきりとはわかっていませんが、おそらく、前近代までは人々の居住地域が同一で、遠い先祖まで把握していなくても他者との関係が自明であったものが、近代化により都市への移動などが起こったことによる「距離と背景の知らない他者と出会う機会の増加であろう」と前掲の橋本論文には書かれています。

皇統の男系継承も文化

現在の皇室は”万世一系の皇統”や”男系”を基に語られますが、恐らく古代の天皇には自分が「神武天皇以来の万世一系を継いでいる」という自覚はなかったでしょう。古代乱立した女帝の時代には、母方の血統も重視されて皇位に就くことも多く、また8世紀の養老継嗣令では「女帝の子も親王である」と規定されていたことから、それは明らかです。

このような「緩やかな男尊女卑」により、なんとなく男系で継がれていたのが古代以前ではありますが、しかし、古代の中頃~後半から日本は中国から男系で継がれる”氏やの制度”を受容するなどし、遅くとも古代後期・中世初期には皇位は男系で継がれるのが当然であるという観念が形成されました(『女帝の古代史』(成清弘和)及び『日本古代の女帝と譲位』(遠藤みどり))。

そして、中世には男系の”世襲宮家”という、何代離れても、数百年離れていても天皇と擬制の父子関係を結ぶ(親王宣下)という慣習が創造され、近代に至りました。

現在のヌエル社会が遠い祖先まで父系で辿って他者との関係を規定するのは近代の産物ですが、だからと言って、それを「ヌエルの本当の伝統ではない」と言い切ることは不可能でしょうし、あくまで分節リネージ体系に基づいている以上、ヌエル社会の大切な文化の一形態です。

アサンテ王国の母系もヌエル社会の父系も皇室の男系も、それぞれの社会に大切な文化と言えるでしょう。



多様な文化をグローバリゼーションから守ろう

それぞれの国や民族に固有の王権やリネージ(系譜)の文化は人類にとって大切な文化遺産だと思います。

これを、男女平等や合理性の観点から、「アサンテ王国は、男の王の子供が王になれないのはおかしい」「王母がいなくてもDNA鑑定すれば、王との血縁関係はわかる」、また「ヌエル社会が父系で親族関係を規定するのは男女差別の風習だからやめるべき」としたら、合理的であるかもしれませんが、伝統の破壊だと思います。

日本の皇室はその継承の伝統を守るべきだし、アフリカは王母の母系継承やヌエル社会の父系コスモロジーの伝統を守るべきでしょう。

それぞれの民族に固有の王権は、グローバリゼーションが進んだ現代社会にあっても、世界はなお多様であると改めて気づかせてくれる貴重な文化遺産と言えるのではないでしょうか。

11 件のコメント

  • 大日本帝国憲法で神聖にして侵すべからずと規定された天皇は
    第二次世界大戦後、国民総意の象徴となりました
    天皇を「神」と祀る国ではなくなった以上
    法治国家では科学的な証明が必要です
    「文化」に科学的な証明とはナンセンス!と仰るでしょうが
    「男系男子限定の皇位継承」に拘る方々によって皇室の安定的な維持は風前の灯火となっているのです
    「もし、万世一系が事実じゃなかったら?」
    事実でもないことで皇室が滅びてもいいということでしょうか?
    皇室をなくさないために女性天皇・女系天皇で繋いでいってもよいという国民が8割以上いるというのに?
    女系天皇を防ぐために女性天皇までも政府は否定しています
    (安倍総理は昨日の会見で「(改憲について)各種の世論調査でも、議論を行うべきとの声が多数を占めている中にあって」という発言をしていますが
    同様に「皇位継承について女性天皇について容認するとの声」は8割を超えていても無視です
    狡いですよね)
    カルト的な思想を首相が頑なに信じることにより
    事実でないことかもしれないことで皇室が滅びてしまったら国民は堪ったものではありません

    皇位継承には科学的な「万世一系」について検証をきちんとした後で「男系男子のみによる継承」を主張すべきです

    まあ、それをクリアした後には「皇位継承第一位の方が次代として相応しいかどうかの議論」も待ってますけどね
    それもしたくないのでしょう?
    こちらも国民としては由々しき問題かと思いますよ

    • 今上陛下の系譜をお護りしましょう様

      いくつか質問があります。

      1, 〉法治国家では科学的な証明が必要です

       この証明のことは万世一系の証明のことだと受け取りました。しかし、その後の文章からもなんのために科学的な証明をするのかがよくわかりません。何故「万世一系の」証明をするべきなのでしょうか?

      2, 〉「男系男子限定の皇位継承」に拘る方々によって皇室の安定的な維持は風前の灯火となっているのです

       これは何を根拠にされているのかわかりかねます。日本には旧宮家が存在致しますこの方に親王宣下をしても尚、「風前の灯」なのしょうか?

      3, 〉「もし、万世一系が事実じゃなかったら?」
      事実でもないことで皇室が滅びてもいいということでしょうか?

       万世一系が事実ではないと証明されたとして何故皇室が滅びるのですか?

      4, 〉皇室をなくさないために女性天皇・女系天皇で繋いでいってもよいという国民が8割以上いるというのに?

       4-1, その調査は信用できますてしょうか?
       4-2, 世論で皇統の事を決めてよいのでしょうか?
       4-2, 3で引用した部分の理由の場合(違えば答えなくて結構)
        4-2-1, 「万世一系が事実でない」として、女系天皇も容認すれば皇室は滅びないのでしょうか?

      5, 〉(安倍総理は昨日の会見で「(改憲について)各種の世論調査でも、議論を行うべきとの声が多数を占めている中にあって」という発言をしていますが
      同様に「皇位継承について女性天皇について容認するとの声」は8割を超えていても無視です
      狡いですよね)
       
       5-1, 貴方は改憲と皇統の問題を同位にみているのでしょうけ?
       5-2, 安部政権が反対派が多いという理由で「女系・女系天皇」を否定しましたでしょうか?

      6, 〉皇位継承には科学的な「万世一系」について検証をきちんとした後で「男系男子のみによる継承」を主張すべきです

       万世一系が否定された場合、貴方はどのような方法で「皇室」を存続させるおつもりでしょうか?

      7, 〉「皇位継承第一位の方が次代として相応しいかどうかの議論」

       7-1, これは誰が議論するのでしょうか?
       7-2, 即位前の時点でだらしないところが見られたりする方でも即位後にそこが改善されたり、また、その逆もあり得ますが、どのような基準で議論されるのでしょうか?

      8, 貴方はお名前から見て直系継承を主張されている様におもいますが、『皇位継承には科学的な「万世一系」について検証をきちんとした後で「男系男子のみによる継承」を主張すべきです』とも仰います。万世一系が証明されなければ直系で継承すべきだというお考えですか?

      長々と申し訳ありません。一問ごとに振られている数字を提示されてからお答え頂けると幸いです。

    • 男系継承が男女差別だと言うなら、ローマ法王が男性しかなれないのも男女差別だと思います。

  •  アフリカの一種族と日本の皇室を比較してコスモロジーを語るのはおかしくないですか。その種族の系譜を辿るのは容易いかもしれませんが
     日本の皇族の系譜は虚実ない交ぜで日本書紀も怪しく思います。
     《徐福東渡の伝説》というものも有りますね

    • 全くの同感です。
      自分の知っている知識,情報だけをふりかざすだけで,戦後の『天皇制』象徴天皇についての国民の心情に目を向けず,一応その血筋と言われている暫定1位の一家に向ける国民の絶望感にも目を向けず、現実に折り合わないその姿はあくまでも男系男子の神話に拘るSF小説と天皇制を心中させようとしているに過ぎません。
      このままでは天皇制は危機だし,これを推し進めるなら政権が続くとは思えませんが?

  • なんか相変わらず「鬼面、人を驚かす」タイトルですな(汗)
    男系継承に日本独自の意義があったならできる限り守っていくべきだと思う。しかし、そんなものは存在せず、とても「守るべき文化」とは言えないんだよなあ。



  • ヨーロッパの王室は、男尊女卑をやめることを、長年の伝統を改めることで示しました。その流れは正義と言えるでしょう。
    固有の文化をうんぬんすることと、同時に世界のありようが変わってきたことを静かに受け止める必要があります。
    日本固有とか、万世一系とかは、日本国憲法のもとでは、すでに認められていません。
    憲法は国の最高規範で、その他の法律は全て、憲法に反してはならないのです。
    皇室典範についても例外ではないのです。

    そのような戦後の大切な変更を、いつまでぐだぐだ認めないのかというのが、日本の後進性と言われています。
    女性の地位が世界的に見て、日本はとても低い。それをよしとしていつまでも社会から女性の力を削いできた結果、いま貧困国と言われ始めた日本です。
    古い縛りのまま朽ち果てていくか、きちんと改革するのか、考える問題です。
    宮本氏の長ったらしい 失礼ながら 書き物の中には、何もあるものがありませんでした。
    口汚い反論をお待ちしています!

    • 現在の法律や「国民と皇室が信頼関係にある」という近代以降の国の在り方を考えると、女性が国の象徴になれないという現在の制度は確かに問題だと思います。
      やはり、バランスが大切でしょうね。

  • 訂正です。
    得るものがありませんでした。が書きたかったことです。
    続けてはねられて、コメントが載りませんでした。どうしてかなと疑問を持ちながら、投稿させていただきます。

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