明治期「女帝討論」の奇妙 「男尊女卑は伝統」「悪しき慣例は撤廃すべき」

文/小内誠一

嚶鳴社討論

政府は秋に予定されている“立皇嗣の礼”が終わり次第、皇位継承者の安定的確保のための議論に入る。国民のおよそ8割が女性天皇に賛同しており、民意を踏まえるのであれば愛子さまの即位、もしくは愛子さまに女性宮家の当主として残っていただくことが第一の選択肢になる。だが、保守派からの指示を受ける現政権は、女性天皇や女系天皇の議論に踏み込むまずに、悠仁さまの即位と男系男子による皇統維持を模索する構えだ。

ところで歴史を振り返ると女性天皇を容認するか否かの問題は、明治期の憲法・皇室典範制定時から盛んに議論された、まさに民族的関心事である。この明治期の女性天皇の可否をめぐる議論は、140年の時を超えて、いまもなお色鮮やかに啓示的である。今回紹介したいのは、1882(明治15)年に行われた女性天皇の是非をめぐる議論、通称「嚶鳴社討論」の一部であり、すでに先に公開した三つの記事に続くものである。

  1. 明治期の「女帝否定論」を紐解く 島田三郎(衆議院議員)の嚶鳴社討論
  2. 明治期の「女帝容認論」を紐解く 肥塚竜と草間時福の嚶鳴社討論
  3. 明治期「女帝否定論」の不思議 「女の幸せは即位ではない」「女に国事は無理」

第四回となる本記事では、女帝否定論者である益田克徳(東京海上保険創立者、1852-1903)が自説を述べた後、肥塚竜(東京府知事、1848-1920)が反論を述べる箇所を紹介する。翻刻に当たっては、古い文体をそのまま残した。読みにくいであろうが資料価値を維持するためご容赦願いたい。

議論の流れ

読者の便をはかるため、議論の構造を先に示して起きたい。

  1. 益田克徳「(1)女帝が政治関与した例があるので、女帝には反対。(2)過去に女性天皇がいたとして、男尊女卑は日本の伝統であり、皇統も男系で紡がれてきたので、女帝を今さら立てるのは不可能」
  2. 肥塚竜「(1)男帝が政治関与した例などいくらでもあるのに、なぜ女帝の政治関与だけ問題視するのは意味不明。(2)男尊女卑は廃止すべき習慣。古けりゃ尊いって、お前は骨董屋か」

また肥塚竜は、第二回で島田三郎が危惧した「女帝の婿を外国から取った場合の危惧」について、「杞憂に過ぎない。結婚相手をわざわざ国外から呼ばなくても、国内で候補者がいくらでもいる。そんなに外国の影響が嫌なら鎖国すればよい」と答えている(主意)。

明治という時代のなせる業とはいえ「男尊女卑は日本の伝統だから女性天皇は不可能」と堂々と言い切る論調には驚かずにはいられない(この点、現代の保守派はオブラートに包んだ表現を好む)。にしても、小塚竜の「男尊女卑は廃止すべき習慣。古けりゃ尊いって、お前は骨董屋か」という言は今にも通じる重い響きがある。

益田克徳による女帝否認論

女帝が政治干渉する恐れ

益田克徳氏曰、余は本論を賛成するを以て、第一に反対論者たる肥塚論者の論を駁せんとす。肥塚論者は女帝を立るを可としながら、英帝ウヰクトリアが政党の争議に干渉せんとせ事蹟を引用せられたるは、自家撞着の言なりと云ざる可らず。予は此如き患あるが故に、女帝を立つ可らずと云んとするなり。

又丸山論者は立憲国にては中主にて足ると論出せり。是れ女帝にもせよ、男帝にもせよ、位に備るの人あれば足れりと云ふの論旨にして、予の甚だ与せざる所なり。余は如何なる政体に於ても、君主の賢なるは、倍々(ますます)賢ならんことを望む者なり。

男尊女卑は日本の伝統であり女帝は不可

又反対論者の中には、我国女帝を立たる事を引て慣例々々と云ふと雖、男を尚び女を次にするは、現に我国人の脳髄を支配するの思想にして、血統は男統に存すと思惟するも亦我国人の慣性に固着せり。故に此等の点より考ふるも亦女帝を立るの不可なるを知る。其政治上に於ては女帝皇婿を下とし玉ひ、内宮に在ては女帝皇婿を所天とし玉ふ如きは、内外大に権衡を失ふことなきを得んや。是れ東西の風俗同一ならざるが為めに、此結果を生ずるに至るを恐るるにあるなり。

所天:仰ぎいただくこと。

肥塚竜による女帝容認論

なぜ女帝の政治干渉だけ問題視するのか? 悪事をした男帝はいくらもでもいる

肥塚竜氏自く、奇なる哉、本論賛成者なる益田氏の言たる。余は、「帝王は悪事を為し得ず」とは古言に聞得たれども、未男子は悪事を為し得ずとの古言は聞かざるなり。論者の言に日く、英国は女帝を立つるが故に、ヴイクトリヤの如き政党に干渉するの害を起したりとに曰く、英国は女帝を立つるが故に、ヴイクトリヤの如き政党に干渉するの害を起したりと。

実に帝王にして政党に依姑の沙汰を為せしは、固(もと)より悪事たるに相違なし。然ども女帝を立たるが故に、政党に左袒せしなりと云ふに至つては、実に男子を以て悪事を為し得ざる者と妄断したる論者と云はざる可からず。論者宜しく史を繕き見よ、古来十人の帝王、九人は非なるにあらずや。若し論者の如く、男帝に悪事なしとせば、支那の二帝三王は三帝四王に増加し、倥々の民、驩虞の人、支那開国以来今日まで分続く可きに、左はなくして、騒乱相続く者は何ぞ。男帝未だ必しも善良の君主にあらざればなり。

帝王は悪事を為し得ず:イギリスでは十七世紀後半、「王は悪を成し得ず(the King can do no wrong)」という憲法原則があった。つまり国家権力は神聖無謬で違法なことをするはずがないと考えられて来た。
左袒:賛同すること。

「男子を尊ぶ」は廃止すべき習慣

又論者は、男子を尊ぶは日本先祖以来の旧慣也、旧慣なれば廃す可からずと云ふ。是れ亦存す可き旧慣と、廃すべき旧慣との別を為さざる論者なり。論者よ、旧慣力の強きは、英国を以て最となす。而して英国は善悪利害の撰びなく、旧慣なれば悉く之を保存すべしと云はず。

学士の言に日く、旧慣は成る可く保存すべし、併し不正の旧慣は之を廃せざる可からずと。是れ其所以は、旧慣を重ずる目安は新古に依て立つにあらず、利害に依って立つ者なればなり。旧きを尚ぶは骨董家能く之を言ふ。論者幸に骨董論者と化する勿れ。益田君の賛成説は以上の駁撃にて足れり。

女帝を否認すれば「政治干渉」の憂いがなくなるというのは誤り、政治干渉してきた男帝はいくらでもいる

去って島田論者の前言を駁せん。島田君はヴイクトリヤ女皇は英国強大なる国会あってすら政党に干渉したれば、我国にては尚更気遣しと云ふ。是亦益田君と同一の穴に陥りたるの論者なり。稍(ようやく)我国にて女帝を立て申さば、或は政党に干渉せらるることもあらん。

然ども君主が政党に干渉するの疾は、女帝を立てざるの薬剤に依て治療せらるる者とは云ふ可からず。路易(ルイ)十四世は平民党に左袒して貴族を斥け、ぜームス三世は保守党に左祖して改進党を斥け、而して此二帝は女帝にあらずして男帝なり。男帝は政党に干渉せずと云ふべからざること知るべし。

外国から婿とを取った場合の宗教問題は杞憂。いやなら鎖国すればよい。

又論者は、外国と婚姻せば、宗教の争を起す云々と云ふ。是れ亦患ふるに足らず。泰西各国憲法を見よ。国王の外国と婚姻ある時、必ず議院の承諾を承くるは、大概立憲国の通法なり。議院の承諾を受けて後、婚姻する者とせば、議院は必ず其結婚より生ずるの利害を熟考せし上ならでは承諾する者にあらず。

且つ外国と結婚せば、是より外国と紛議を起す云々と云ふも、結婚より紛議を起すと云はけに結婚より便利を起す者も多かるべし。若し論者の如く、外国と紛議々々と云はば其極や、鎖港痩夷を以て奥の手とするに至らん。

女帝の婿をわざわざ海外から探す必要などなく候補者はいくらでもいる

又た論者は、婚姻は意気の相投合するより成ると云ふ。実に然り。意気相投合するより成る者なれば、我国女帝たらん皇女あらば、配偶を海外万里に求めさせられずして、我が皇族中にて言語を交へ容貌を熟知あらせらるる御方を求め、関雄の徳を宇内に施んことを望ませらるなるべし。

故に外国と婚姻するも其利害を熟考するの議院あり、内国にて皇婿を立てさせらるるも、固(もと)より結婚に乏しからず。是れ余の本論に反対する所以なり。(三月二十三日)

1 個のコメント

  • この問題の難しいところは、天皇家が古代から現代まで連綿と続く「古代王朝」であり、また世界で唯一の存在だということ。
    そしてさらに厄介なのは皇位継承について「伝統」という名のある意味いいかげんな、それでいて1000年を超えてなお厳格に守られてきた明確なルールが存在することだ。
    天皇家の皇位継承が男尊女卑なのは古代王朝である以上当然のこと。男尊女卑的でなくなれば、天皇家もまた古代王朝でなくなる。
    過去に前例のある女帝まではよしとしても、女系の天皇が即位するのは皇位継承のルール違反。
    これは私や論者たちの個人の解釈の問題でなく誰がどう解釈してもルール違反でしかない、ということ。

    私はかねてよりそのことを訴え続けているが、しかし「女系天皇」の全面的な否定論者というわけでもない。
    ただ、
    ①女系天皇は現皇室の「皇位継承のルール違反」であることを明確にすること。
    ②女系天皇の容認は万策が尽きたときの最終手段。(民間にすら男系の該当者が存在しない場合)
    ③女系天皇が即位した瞬間、現天皇家は「前王朝の天皇家」となり、新天皇は現代に新しく開かれた新王朝の「初代天皇」である。

    この上記のことを明確にすることだ。つまり今上陛下が第126代天皇、もし敬宮愛子内親王殿下が即位すれば127代天皇。
    そしてその子がもし即位するのであれば、新しい王朝の初代天皇であって、決して現天皇家の127代目を継ぐのではない、ということ。

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